進化し続ける「ARMコンピュータ」は
スマホの次なる創造として小型コンピュータを送り出している
数多い半導体メーカーがARMのライセンスを受けて製品開発を行っています。特にスマートフォンやタブレットの人気や普及で高機能・高性能化に拍車がかかっています。ARMのコアを使ったプロセッサを持つ小型コンピュータは、立派なデスクトップ機とほぼ同格ともいえるでしょう。ARMコアをもつコンピュータをARMコンピュータと呼びましょう。中でも最近話題性の高いプラグコンピュータとRaspberry Pi、CuBoxを紐解いてみましょう。これらの製品の核となっているSoC(System On Chip,CPUコアの他に周辺回路も合わせて1チップに凝縮されたもの)を提供しているのがそれぞれ次の3つです。
プラグコンピュータ→米Marvell社
Raspberry Pi→米Broadcom社
CuBox→米Marvell社, CuBox-i→米Freescale社
Marvellのアプリケーションプロセッサは、ARMv7アーキテクチャに準拠しているのですが、Xscaleプロセッサという別のプロセッサを実装しています。、Xscale(エックススケール)とは、旧DECと英ARMで共同開発したプロセッサで、当初は「StrongARM」とよばれていました。このStrongARMをIntelが買収し、自社製品としたときにつけた名前がXscaleです。現在のMarvell社のスマートフォン/タブレット向けのアプリケーションプロセッサはARMADA(アルマダ)シリーズという名称となっていますが、これはIntel社からXscaleのビジネスを2006年に買収したものの、名前の使用期限を設定されていたので新たな名前へと変更となったものです。ARMADAで使用されているSheeva(シーバ)コアの特徴は、Xscale時代にIntelが強化したSIMD(Single Instruction Multiple Data)演算機構であるWireless MMXを搭載している点です。名前からわかるようにIntel CPUに搭載されていたMMXをベースに開発されたSIMD演算機構です。一方ARM系のSIMD演算機構は「NEON」と呼ばれ、別の命令体系となっとぃます。ただし、NEONは「Cortex-A8」まではオプションとされており、実装していないプロセッサもありました。このため、Androidを採用したシステムでは、メディア関連のライブラリでNEONの有無に対応していてアプリケーションが直接NEONを操作することは少ない(利用することは不可能ではないが 互換性を保つ方が優先だった)。また、処理によっては、NEONよりもVFP(NEON以前に導入されたベクトル演算機能)を使う方が高速な場合もあります。結局、セットメーカーが最適なライブラリを選択して導入しています。
さて、プラグコンピュータというのは、フォームファクター(フォームファクタと呼ばれる規格化をすることでベンダー間・世代間で部品交換可能であることを保証しようとするもの)として、電源プラグ(電源アダプタ)に超小型コンピュータを内蔵一体化させた製品です。電源コンセントに直接挿せる小型省電力サーバーマシンとして使用することができるというのが始まりです。
2005年Marvell社と、富士電機ハイテック(現富士電機)が業務提携。クラウドエンジンズ社がその製品Pogoplugを発表、CTERA Networksがその製品「CloudPlug」を発表。2009年2月、Marvell社が「Plug computer」構想を発表し、その製品をIONICS社とGlobalscale社が製品として「SheevaPlug」を発売。その後世代を重ねて数多くの多種多様なプラグ製品が世に出された。基本は開発用であり、試作品としてアプリを迅速に開発できるツールとしてよく利用されています。
余談ですが、2010年には、Marvell社は99ドルの安価な学生向けタブレットPC「Marvell Moby」の試作機を発表しました。教育分野向けに同社のプロセッサを搭載したタブレットを提供する取り組みの一環でした(MobyはMarvellのARMADA 600プロセッサを搭載し、1080pフルHD動画再生機能、Wi-Fi、Bluetooth、FM、GPS、3Dグラフィックス機能、Flashサポートなどを備え、AndroidやWindows Mobileに対応。電子書籍を読むこともできるため、学生は重い紙の教科書を持ち歩かずに済む)。Marvell社は開発途上国の子供向けに安価なPCを提供するOne Laptop per Child(OLPC)プロジェクトのスポンサーでもあります。またスタンフォード大とのコラボである学習用のSMILEプラグも開発途上国の教育向け製品です。
pogoplugの初代機(左)は、よく知られたpogoplug(右)とは違っていました。初代シーバプラグ(上)そのままでした。最新のD3plug(下左)の外形はボックス型となっています。教育向けのSMILE plugは、教室内全部を相手に60台同時にWiFi接続するというミラクルマシンです。
最近は、表示機能や入出力ポートを付加し、外形が「電源プラグ型」ではなくなり、Boxという名に代わってきています。その意味でも、プラグコンピュータというよりはARMコンピュータと言ったほうがふさわしいのかもしれません。〇〇プラグと呼ぶほうが馴染みはありますが。
イスラエルのSolidRun社のCuBoxおよび、メモリを2GBに増強したバージョンであるCuBox Proは、Marvell社のプラグコンピュータで表示機能のついたD2Plug、その後継機D3plugなどと同じARMADA510を使用しています。洗練されたデザインの小さなボディと、XBMCやミュージックサーバーなどのテレビやオーディオ用アプリケーションに向いた設計となっているのが人気をよんでいます。「Raspberry Pi の箱に入った実用版」という言い方もされ、実用性の評価が高い。2013年9月に発表した同社のCuBox-iシリーズではiMX6を使用。CuBoxをSolidRun社ではプラグコンピュータとは呼ばず、LittleComputerとかMiniatureComputerと呼んでいます。プラグコンピュータを提唱しているMarvell社の フォームファクター 以外とするためかなのかは今のところ不明です。いずれにしても、Cu-Box-iはAndroid JerryBeansマシンであり、Cu-Boxとは互換性のない別物となります。
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